"教師自身が学べる環境"をつくる
――生成AI時代の情報モラル教育と、現場から見えた出発点
2026年09月14日
対象:教育関係者向け
教材:GIGAワークブック

「子どもたちの情報活用能力を育てる」――この言葉が学校に届いてから、もうずいぶんの時間が経ちました。GIGAスクール構想によって端末は行き渡り、教材の選択肢も広がりました。文部科学省や各自治体からは、端末活用の指針や生成AIの利用ガイドラインも示されています。
そして、いま子どもたちが手にする端末やアプリのなかには、すでに生成AIの機能が組み込まれている場面が増えています。検索、翻訳、文章作成、画像の生成――子どもたちが日常的に使うツールの内側で、AIは静かに、けれど確実に存在感を増しています。
そうした現実のなかで、私たちが現場でお会いする先生方からは、こんな声をしばしば伺います。「方針は示されている。ただ、日々の授業のなかで判断に迷う場面には、まだまだ多く直面する」「AIとの付き合い方を教えなければとわかっている。ただ、自分自身がまだ、AIをどう扱えばよいか手探りのままなのです」――。
本稿では、私たちみらいプロジェクトが実施した調査結果と、監修者である明星大学 教育学部 今野貴之教授のご提言をふまえ、生成AI時代の情報モラル教育と、それを支える"環境"について、私たちなりの受け止めを共有させてください。
01. 「対話・協働」を重視する一方で、生成AIには自信が持てない
私たちが2025年10月から2026年1月にかけて、GIGAワークブック導入校の教員・管理職399名に実施した調査からは、教員のみなさんの高い教育観がはっきりと浮かび上がります。
・「対話や協働、課題解決を伴う学習は、学習成果を高めるうえで重要」:約94%が「そう思う」と「ややそう思う」と回答・「情報活用スキルは基礎学力の一部」:約90%が「そう思う」と「ややそう思う」と回答
これからの学びに求められている姿を、教員のみなさんは強く意識しておられることが伝わってきます。
一方で、同じ設問群のなかに、少し気になる数字がありました。
・「授業の質を高めるために、生成AIを使いこなせる自信がある」:約47%が「あまりそう思わない/そう思わない」
対話や協働、情報活用スキルの重要性は強く感じている。けれど、いざ自分が生成AIを授業のなかで使いこなせるかと問われると、半数近い教員が自信を持てずにいる――この率直な数字は、変化の速さと現場のリアルの両方を映しています。
実際、授業での生成AI活用はまだ限定的です。同じ調査で、GIGAスクール端末の主な活用用途は「調べ学習」小学校 約83%/中学校 約84%、「動画や写真による記録」小学校 約80%、「発表・プレゼンテーション」中学校 約73%と広がる一方、生成AIの活用や学習管理システムの運用など、学習支援的な用途は最大でも20%程度にとどまっています。
大切なのは、この47%という数字を「これから追いつくべき課題」ではなく、「もう始まっている現実に、どう向き合っていくか」という問いとして受け止めることだと、私たちは考えています。端末やアプリのなかにすでにAIが入り込んでいる以上、"導入するかどうか"を検討する段階ではなく、"どのように向き合うか"を考える段階に、教室はすでに移っているからです。
出典:LINEヤフー株式会社「GIGAスクール端末および情報モラル教材の活用状況と効果、教員意識に関する調査報告書」(2026年7月)pp. 19-20
02. 84%の教員が求める「ルールと方針の明確化」

もう一つ、私たちが受け取った重要な数字があります。
・「学校全体でGIGAスクール端末の活用を推進するためには、学校の指導方針や活用ルールが明確である必要がある」:約84%の教員が「そう思う」「ややそう思う」と回答
もちろん、多くの学校・自治体には、すでに端末活用や情報モラル指導に関する方針・ルールが存在しています。文部科学省の各種ガイドラインや、教育委員会からの指針も、繰り返しアップデートされてきました。この84%という数字は、そうした既存の取り組みを否定するものではないと、私たちは受け止めています。
むしろ、この数字が映し出しているのは、現場での活用が想定を超えて広がり、日々出会う場面のほうが、方針の更新スピードを上回りつつあるという現実ではないでしょうか。
新しいアプリを子どもたちが授業で使い始める。生成AIをどう扱うかの相談が入ってくる。SNSで想定外のトラブルが起きる。――こうした場面の一つひとつに、既存のルールをそのまま当てはめて答えるのは、実は簡単なことではありません。方針が「ある/ない」ではなく、方針が"目の前の場面と噛み合って動くか"が、いま問われているのだと思います。
出典:LINEヤフー株式会社「GIGAスクール端末および情報モラル教材の活用状況と効果、教員意識に関する調査報告書」(2026年7月)p. 21
03. 二つの数字は、別々の問題ではない
一見すると、「生成AIへの自信」と「ルール明確化のニーズ」は、別の話題に見えるかもしれません。けれど、私たちには、この二つが同じ変化の裏表に見えます。
新しい技術に触れる不安。ガイドラインはあっても、目の前の場面にどう当てはめるか判断に迷う感覚。そのどちらも、根っこにあるのは「教育現場の変化のスピードに、支える仕組みが追いつききれていない」という構図です。これは、教員個人の資質の問題でもなければ、行政や学校が"何もしていない"という話でもありません。誰もが真摯に向き合ってきたなかで、それでも変化のほうが速い――そのことを、正直に見つめたいと感じています。
今野貴之先生は、この点について、二つの提言を示されています。
「児童生徒に情報活用能力を求める前に、生成AIに自信を持てない教師自身が、失敗の許される場で学び続けられる環境を整える必要がある。(中略)教師の学びもまた、同僚との対話や授業研究、試して語り合う関係のなかで深まる。完璧に使いこなしてから導入するのではなく、子どもと一緒に学ぶ姿を見せるような、不完全さの共有こそが、これからの教師の専門性になる。(今野貴之教授・提言より)」
「端末活用の成否を個々の教員の熱意や力量だけに委ねず、方針やルール、相談体制といった仕組みで支える「環境整備」が必要である。方針づくりは現場を縛る規制ではなく、一人ひとりの工夫を組織の財産へと育てる基盤である。(今野貴之教授・提言より)」
教員自身が学び続けられる場と、個人の工夫を組織で支える環境整備。この二つは切り離せません。研修だけを増やしても、上位のルールを整えるだけでも、片方だけでは追いつかない――そう捉え直したいと、私たちも感じています。
04. 校内研修は「受けさせれば身につく」ものではない
もう一点、教材の選び方についても触れておきたいことがあります。
私たちの調査では、GIGAワークブックの活用理由として、「教育委員会からの推奨があったから」が40%近くと上位に入りました。よい教材が現場に届く回路として、こうした推奨制度は歓迎すべきものです。ただ、同時に注意したい側面もあります。
多忙な現場では、推奨された教材を"内容を吟味する時間がないまま"使い始めることも少なくありません。ここで大切になるのが、目の前の子どもたちに、いまその教材が本当に必要なのかを見立てる目です。
すでに起きている問題への「処方箋」として使うのか。これから起きうる問題への「予防」として使うのか。同じ教材でも、その位置づけによって授業の設計は変わります。「まずやってみる」こと自体は悪くありません。ただ、なぜ・いつ・誰に使うのかを見立てないまま形式的に流してしまうと、教材の力を十分に引き出すことはできません。
教材は、あくまで"道具"です。その道具を、誰に・いつ・なぜ使うのかを見立てるのは、先生方の専門性の核心にあたる部分だと、私たちは考えています。
出典:LINEヤフー株式会社「GIGAスクール端末および情報モラル教材の活用状況と効果、教員意識に関する調査報告書」(2026年7月)p. 25
05. 方針づくりは"更新され続ける"ことに意味がある

もう一つの側面、方針やルールの明確化についても、少し考えたいことがあります。
方針やルールというと、"一度つくって固めるもの"というイメージを抱かれるかもしれません。けれど、生成AIやSNSのように、環境の変化が速いテーマにおいては、方針は"更新され続けてこそ機能する"ものだと、私たちも感じています。
学校や自治体のレベルで、活用の方針・相談できる体制・端末や教材の更新計画を整え、そこに現場からの気づきを反映していく回路があること。これが、教員一人ひとりが「安心して試行錯誤できる土台」につながっていきます。
優れた実践が、一人の先生の工夫として教室のなかに点在していても、共有される仕組みがなければ、その先生の異動とともに教室のなかに留まってしまいます。逆に、方針や共有の仕組みが循環している学校では、一人の工夫が同僚に伝わり、次の学年に受け継がれ、時間をかけて"組織の財産"に育っていきます。
方針づくりとは、"個人の工夫を、学校の力に変える基盤"――そう捉え直すことで、ルールの明確化という言葉の意味は、ずいぶん違って見えてきます。
06. 「使わせない」ではなく、「見極める力」を育てる

こうした環境整備を進める一方で、子どもたち自身に対しては、私たちはこう考えています。
AIは、もう「使わせるかどうか」を選べる段階ではありません。
翻訳アプリ、検索エンジンの回答要約、文章校正、画像生成――子どもたちが日常的に使う端末やサービスのなかに、生成AIはすでに機能として組み込まれています。「AIを使わせない」と決めても、子どもたちは意識しないうちにAIの回答に触れているのが実情です。
だからこそ、これからの情報モラル教育に求められているのは、AIの特徴を知り、AIが示す情報を「見極める力」を育てることだと、私たちは考えています。
生成AIは、大量の文章から「次に来そうな言葉」を予測して回答を組み立てる仕組みです。その回答は、もっともらしく見えても、必ずしも正しいとは限りません。知らないことを「知っているふう」に語ってしまうこともあります。
こうしたAIの特徴を、大人が禁止というかたちで伝えるのではなく、子どもたち自身が実際にAIに触れながら気づいていける授業設計こそが、いま求められているのではないでしょうか。
そして、その授業のなかで教員自身も、子どもたちと一緒にAIと向き合う経験を積んでいく。そう考えると、生成AIをテーマにした授業は、子どもたちの学びの場であると同時に、教員自身の学びの場にもなっていくはずです
07. 生成AIをテーマにした新しい教材の試み
こうした問題意識のもと、私たちみらいプロジェクトでは、生成AI時代の情報モラル教材の開発を進めています。
ソフトバンク株式会社および静岡大学教育学部の塩田真吾先生と連携し、児童が生成AIの仕組みや特性を基礎から学び、AIを使うときの注意点を具体的な場面で考えていく新しい教材を、現在準備しています。
2026年9月には教材のテストを兼ねた出前授業を実施しました。当日の様子は別ページの実施報告記事*にまとめていますので、あわせてご覧ください。
正式な教材公開は2026年11月頃を予定しています。この新教材は、今後「活用型情報モラル教材 GIGAワークブック」のコンテンツの一つとして搭載していく予定です。
SNS・個人情報・著作権・情報の信頼性といったこれまでのテーマに、「生成AIとの向き合い方」が加わることで、いま子どもたちが直面している情報環境を、より幅広くカバーできる教材群を目指しています。
*参考: LINEヤフー、ソフトバンクおよび静岡大学と共同で、 小学生49人を対象に、生成AIの仕組みや特性・リスクを学ぶ授業を実施(2026年9月10日)
08. おわりに:一人の工夫を、学校の力に
児童・生徒に情報活用能力を求める前に、まず教員自身が学べる場をつくること。既存の方針や取り組みを土台としながら、変化のスピードに合わせて更新し続けていくこと。――この二つは、これからの学校教育の"見えない土台"のような部分ですが、いちばん大切な部分でもあると、私たちは感じています。
生成AIは、もう遠くにある未来の技術ではなく、教室の端末のなかにすでに存在しているものです。すべての変化に個人で追いつくことは、誰にとっても難しい。だからこそ、一人の工夫が、学校の力に変わっていく仕組みを、少しずつ丁寧に育てていきたい。
これからも、現場の先生方の声に耳を澄ませながら、教員のみなさんが安心して学び、試し、語り合える環境づくりに、伴走者の一人として関わっていけたらと思っています。
文:LINEヤフー みらいプロジェクト事務局
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調査の監修者である明星大学教育学部の今野貴之教授による提言をもとに、これからの情報モラル教育のあり方について記事で紹介しています。ぜひ、調査報告書とあわせてご覧ください。



