いざという時のために。
学校の防災訓練に加えたい「情報防災」という備え
2026年07月07日
対象:教育関係者向け
教材:情報防災教育

学校の防災訓練は、子どもたちに「いざという時にどう動くか」を教えてくれる、とても大切な学びです。
地震が起きたら、まず身を守る。放送や先生の指示を聞く。「お・か・し・も」――おさない・かけない・しゃべらない・もどらない――の合言葉を守って避難する。こうした訓練を通じて、子どもたちは災害時に自分の命を守るための行動を、頭だけでなく体でも覚えていきます。
では、スマートフォンやSNSが当たり前になった今、もう一つ、学校で子どもたちと考えておきたい備えがあるのではないでしょうか。
それは、災害時にスマホへ次々と流れてくる情報を、どう受け取り、どう見極め、どう行動につなげるかということです。
災害時の情報は、自分や家族の命を守る手がかりになることがあります。一方で、扱いを間違えれば、誰かを危険にさらしたり、混乱を広げたりしてしまうこともあります。
これだけ多くの人が災害時の情報をスマホに頼るようになった今、体を守るための防災訓練に加えて、「情報を扱うための訓練」も必要なのではないでしょうか。
私たちは、その新しい備えのあり方を「情報防災訓練」として提案しています。
今回は、学校の防災訓練に敬意を持ちながら、スマホ時代の子どもたちに必要な「情報の備え」について考えてみたいと思います。
01. なぜ今、「情報を扱う防災訓練」が必要なのか
災害時にスマホが手元にない。あるいは、スマホがつながらない。
そう想像するだけで、大人でも不安になる人は少なくないのではないでしょうか。
家族と連絡が取れるのか。
今いる場所は安全なのか。
避難したほうがよいのか。
どこに行けばよいのか。
このあと何が起きそうなのか。
こうした判断をするうえで、スマートフォンやSNSから得られる情報は、今や欠かせないものになっています。
それは、情報が危険だから気をつけよう、という話だけではありません。
情報は、災害時に自分や誰かの命を守るための大切な道具です。自治体や報道機関の発信を確認したり、家族や友人の安否を知ったり、地域の被害状況や避難所の情報を共有したりすることができます。
一方で、災害時には不安や混乱から、誤った情報やデマも広がりやすくなります。情報防災訓練のガイドブックでも、災害時には安否や被害状況を確認・共有するために「情報」が大きな役割を担う一方で、不安や混乱から間違った情報や不安をあおる情報が発生しやすいことが指摘されています。
だからこそ必要なのは、SNSをただ「危ないもの」として遠ざけることではありません。
情報を命を守るための道具として活用できるように、平時のうちから「どう見ればよいか」「どう確かめればよいか」「どう共有すればよいか」を考えておくことです。
これが、私たちが「情報防災訓練」として提案している考え方です。
避難経路を確認するように、情報の確認の仕方も練習しておく。
机の下にもぐる行動を体で覚えるように、情報を見たときに立ち止まる視点も身につけておく。
スマホ時代の防災として、こうした備えを学校の中で子どもたちと一緒に考えることには、大きな意味があるのではないでしょうか。
02. 学校の防災訓練にある「いざという時」の学び

学校の防災訓練というと、9月1日の「防災の日」を思い浮かべる方も多いかもしれません。
ただ、実際にはその時期だけではありません。地域によっては、過去に大きな災害が起きた時期を意識して実施されることもありますし、地震、火災、豪雨、津波など、想定を変えながら年間を通じて行われることもあります。
そう考えると、防災訓練は学校にとって、一度きりのイベントというより、もはや年中行事の一つと言ってもよいのかもしれません。
それは裏を返せば、災害への備えが、私たちにとってそれだけ重要だということでもあります。
「いざという時に、どう動くか」。
その判断を、頭だけでなく体で覚えておく。学校の防災訓練には、そんな大切な役割があります。
先生方が日々の忙しい学校生活の中で、防災訓練を続けてくださっていることは、子どもたちの安全を守るうえで、とても大きな意味を持っています。
だからこそ、その積み重ねに敬意を持ちながら、スマホ時代の防災として、もう一つ考えておきたいことがあります。
体の動かし方を訓練するように、情報の受け取り方や判断の仕方も、子どもたちと一緒に平時から考えておくことはできないだろうか、ということです。
03. 災害時、子どもたちはスマホの情報にも向き合う

災害が起きたとき、私たちはまず何をするでしょうか。
もちろん、身の安全を確保することが最優先です。揺れがおさまるまで頭を守る。危険な場所から離れる。周囲の状況を確認する。
でも同時に、多くの人がスマートフォンを手に取るのではないでしょうか。
今、何が起きているのか。
自分の地域は危険なのか。
家族や友人は無事なのか。
避難したほうがよいのか。
どこに行けばよいのか。
災害時の情報は、私たちの命を守るために欠かせないものです。SNSやインターネットによって、現場の情報や自治体からのお知らせを素早く知ることができるようになりました。
情報が速く広がるということは、正しい情報を早く届けられるということです。これは、災害時には大きな強みです。
一方で、間違った情報や、まだ確かめられていない情報も、同じように速く広がってしまいます。
「川が氾濫しそうです」
「近くの店で食料がなくなっています」
「知り合いから聞いた話ですが、危険らしいです」
「みんな早く逃げてください」
こうした情報は、自分や家族の命を守る手がかりになることがあります。けれど、扱いを間違えれば、誰かを危険にさらしたり、混乱を広げたりしてしまうこともあります。
だとすれば、その情報をどう見極め、どう活用するかを、子どもたちが平時のうちに学んでおくことには、大きな意味があるはずです。
04. 怖いのは悪意だけではない。善意が混乱を広げることもある
災害時の情報というと、「悪意のあるデマ」や「誰かをだますためのフェイクニュース」を思い浮かべる方もいるかもしれません。
もちろん、そうした情報には注意が必要です。
ただ、災害時の情報の難しさは、それだけではありません。
特に災害時は、誰もが不安です。
「早く知らせなきゃ」
「みんなに共有したほうがいいかもしれない」
「もし本当だったら大変だ」
そんな善意や焦りから、十分に確かめないまま情報を広めてしまうことがあります。
悪意のある人だけが、デマを広げるわけではありません。むしろ、誰かを助けたいという気持ちや、「自分は正しいことをしている」という思い込みが、結果として混乱を大きくしてしまうこともあるのです。
また、SNSを見ていると、同じような意見や投稿が何度も流れてくることがあります。
「この地域は危ないらしい」
「この水は使わないほうがいいらしい」
「みんな避難したほうがいいと言っている」
何度も目にすると、それだけで本当のことのように感じてしまいます。
でも、少し立ち止まって考えてみる必要があります。
その情報は、誰が発信しているのでしょうか。
いつ発信された情報なのでしょうか。
他の信頼できる情報でも、同じことが確認できるのでしょうか。
災害時には、この「立ち止まる」ことがとても難しくなります。焦っているからです。不安だからです。早く行動しなければと思うからです。
情報防災訓練の授業展開例でも、SNSでは同じ意見を持つ人が集まりやすく、異なる意見が見えにくくなることで、「みんながそう言っている」という思い込みが生まれやすいことが扱われています。
だからこそ、平時のうちに練習しておく必要があります。
防災訓練で避難経路を確認するように、情報を見るときの確認ポイントも、あらかじめ体に覚えさせておく。
それが、私たちが「情報防災訓練」として提案している備えの考え方です。
05. 情報を見極めるための合言葉「だいふく」

では、「情報を扱う訓練」とは、具体的に何を練習することなのでしょうか。
災害時に流れてくる情報を、すべて正確に読み解くこと。
どんな投稿が正しいかを、一瞬で判断できるようになること。
もちろん、そんな力を子どもたちに求めるわけではありません。災害時は、大人であっても不安になりますし、判断に迷う場面はたくさんあります。
大切なのは、情報を見た瞬間にすぐ信じたり、すぐ広めたりする前に、ほんの少し立ち止まれることです。
「これは本当に信じてよい情報だろうか」
「今、誰かに共有してもよい情報だろうか」
「急いで広める前に、確認できることはないだろうか」
そう考えるための、シンプルな“型”を持っておくこと。
防災訓練で避難経路や行動の順番を確認するように、情報を見るときにも、確認する順番や視点があると、いざという時の判断を支えてくれます。
そのための合言葉として、私たちは「だいふく」という考え方を教材の中で用いています。
「だ」は、誰が言ったのか。
「い」は、いつ言ったのか。
「ふく」は、複数の情報を確かめたのか。
とてもシンプルですが、災害時にはこの3つが大きな助けになります。教材でも、災害時の情報の見極め方として「だいふく」をキーワードに学ぶ構成になっています。
たとえば、「川の水位が危険です」という投稿を見たとします。
それは自治体や気象機関など、信頼できる発信元から出ている情報でしょうか。
数時間前の情報ではなく、今の状況に合った情報でしょうか。
他の公式情報やニュースでも、同じ内容が確認できるでしょうか。
こうして考えるだけで、情報の見え方は少し変わります。
もちろん、災害時にすべての情報を完璧に確認することは難しいかもしれません。けれど、「だいふく」という合言葉を知っているだけで、あわててシェアする前に、一呼吸置くことができます。
その一呼吸が、自分や家族を守ることにつながるかもしれません。
そして、誰かを混乱させないことにもつながります。
06. 子どもたちは、守られるだけでなく防災に貢献できる
これまで、災害時の子どもたちは「守られる存在」として語られることが多かったように思います。
もちろん、それは今も変わりません。大人が子どもたちの安全を守ることは、何より大切です。
ただ、スマートフォンやSNSに日常的に触れている子どもたちは、災害時に情報を受け取るだけでなく、情報を発信したり、周囲と共有したりする側にもなり得ます。
たとえば、安全が十分に確保された状態で、地域の状況を正しく共有する。
家族に安否を伝える。
自治体や公的機関の情報を確認し、必要な人に伝える。
そうした行動は、地域の防災に貢献する力にもなります。
ガイドブックでも、SNSに触れることの多い子どもたちは、災害時に素早く情報を集めたり、安否情報や被害情報を発信したりすることで、地域防災に貢献できる可能性を秘めているとされています。
だからこそ、子どもたちには「SNSは危ないから使わないように」と遠ざけるだけではなく、災害時にどう情報と向き合えばよいのかを、具体的に学ぶ機会が必要なのだと思います。
これは、情報モラル教育の一部でもあります。
そして同時に、防災教育の一部でもあります。
情報を受け取る力。
情報を見極める力。
必要なときに、正しく共有する力。
こうした力は、子どもたちがこれからの社会を生きていくうえでも、大切な力になっていくはずです。
07. 防災訓練のあとに、15分の「情報防災訓練」を
学校現場は本当に忙しいです。
新しい取り組みが大切だと分かっていても、授業時間を確保し、教材を探し、準備をすることは簡単ではありません。
だからこそ、私たちは「情報防災訓練」を、防災訓練の前後や、学級活動、総合的な学習の時間、情報の授業など、学校の状況に合わせて取り入れられる形で提案しています。
教材では、50分の授業案に加え、15分で実施できるショートバージョンも用意されています。防災訓練の後の時間や学級活動などで取り組めることも、活用のポイントとして示されています。
たとえば、防災訓練を行った日の帰りの会で、15分だけ考えてみる。
「今日、実際に災害が起きていたら、みんなはどんな情報を見ていたと思う?」
「この投稿は、シェアしてもよいと思う?」
「信頼できる情報かどうか、どこを見れば分かる?」
そんな問いかけだけでも、子どもたちの中に小さな気づきが生まれます。
大切なのは、怖がらせることではありません。
「デマを広めたら大変なことになるぞ」と脅すことでもありません。
災害時の不安な状況の中で、自分ならどう判断するか。
誰かのためにと思ってした行動が、逆に混乱を広げることはないか。
情報を受け取るとき、発信するとき、どこに注意すればよいか。
それを、平時の教室で一度考えておくこと。
その経験が、いざという時の判断を支える小さな訓練になるのだと思います。
08. おわりに:体を守る訓練に、判断を守る訓練を
防災訓練は、私たちにとってとても身近な学校行事です。
机の下にもぐる。
静かに避難する。
集合場所を確認する。
大人になってから、訓練で教わったことを一つひとつ正確に思い出す機会は、そう多くないかもしれません。けれど、いざ大きな揺れを感じたとき、自然と身を低くしたり、出口や避難経路を意識したりする。そんなふうに、学校で繰り返し教わってきたことが、知らないうちに体に染みついていると感じる瞬間があります。
そのとき初めて、「あの訓練は、本当に大事だったんだな」と思うこともあるのではないでしょうか。子どもの頃には少し面倒に感じた訓練も、大人になってから、学校で教えてもらった備えとしてありがたく思い返す瞬間があります。
防災訓練は、いざという時に体を動かすための備えです。
そして、スマートフォンやSNSが当たり前になった今、そこにもう一つ加えたい備えがあります。
それは、情報におどらされず、情報を活用するための備えです。
どの情報を信じるのか。
どの情報を広めるのか。
どの情報はいったん立ち止まるべきなのか。
災害時には、その判断が自分や大切な人の安全に関わることがあります。
だからこそ、体を守る防災訓練とあわせて、判断を守る「情報防災訓練」を学校の中に取り入れていくことには、大きな意味があるのではないでしょうか。
防災訓練が、年に一度のイベントではなく、私たちの日常に根づいた備えであるように。
情報との向き合い方もまた、特別な授業としてではなく、子どもたちがこれからの社会を生きていくための大切な力として、少しずつ育てていけたらと思います。
まずは、読むことからでも構いません。
一つの投稿を見たときに、「だいふく」で考えてみる。
自分の街の防災情報が、どこから発信されているのか調べてみる。
家族やクラスで、災害時にどんな情報を見るかを話してみる。
それだけでも、情報防災訓練の第一歩になるはずです。
LINEヤフーみらいプロジェクトでは、災害時の情報収集・発信や情報の真偽を見分ける力を養う教材として、「情報防災訓練」を無償で提供しています。現在は「情報収集編」「情報発信編」「情報防災バッグ編」の3つの教材があり、避難訓練と連動した実施を支援する内容として紹介されています。
授業で活用できるスライド、ワークシート、カード教材、指導者用ガイドブックが用意されており、学校の授業や防災訓練と組み合わせて活用できます。教材は、小学校高学年・中学校・高等学校を対象に、総合的な学習の時間、学級活動、情報などでの実施が想定されています。
また、個人や家庭で防災について考えるきっかけとして、ヤフーの防災関連コンテンツもあります。
「ヤフー防災模試」では、クイズ形式で防災に関する知識を確認でき、受験結果は点数や偏差値、五角形チャートなどで表示されます。
「スマホ避難シミュレーション」は、震度6強の地震発生を想定した避難体験コンテンツで、地震発生時に気をつけるポイントやスマホの活用方法を学べます。
学校での訓練として、
情報教育の一環として、
そして、先生ご自身やご家庭での備えを見直すきっかけとして、
災害時に情報をどう受け取り、どう判断し、どう活用するか。
そのことを考える入口として、ぜひ一度、触れてみていただければと思います。
文:LINEヤフー みらいプロジェクト事務局
